読了 約4分

DX担当が一人しかいない会社の進め方

DXが進まないのは人数が足りないからではなく、一人の担当に「道具選び」から任せているからです。業務の流れを一枚に描き、今あるシステムで直せることから始め、経営者が時間と判断の範囲を決めれば、一人でも回り始めます。

「DX担当」を一人置いた。ツールも入れた。けれど現場では使われず、その担当が異動や退職をすればすべて止まる。中小製造業でよく見る光景です。

原因は人数ではありません。一人の担当に、道具選びから定着まで全部を任せていることにあります。この記事では、一人しかいない状態でも回り始める順番と、経営者側が決めるべきことを書きます。

「一人しかいない」のは人数の問題ではなく、役割の問題

DXでつまずく会社の担当者は、たいてい次の3つを同時に背負っています。

  • どのツールを入れるかを決める
  • 現場に使ってもらう
  • 経営者に成果を説明する

この3つは別の仕事です。特に「現場に使ってもらう」は、担当者一人の力ではどうにもなりません。現場が動くのは、現場の困りごとが減ると分かったときだけです。

だから最初に変えるのは人数ではなく、担当者の役割です。「道具を入れる人」から「業務の流れを整理し、直せるところを見つける人」に変えます。

最初にやめること:ツール選びから始める

ツールを先に決めると、業務をツールに合わせることになります。現場は「余計な入力が増えた」と感じ、使われなくなります。

順番を逆にします。業務の流れを先に描き、直したい箇所を決めてから、それに合う道具を探す。すでに持っているExcelや基幹システムで足りることも珍しくありません。

最初の1か月:業務の流れを一枚に描く

やることは単純です。受注から出荷までを、誰が・何を・どこに・どの順でやっているか、一枚に描きます。

  • 紙とホワイトボードで十分です。ツールは要りません
  • 描くのは担当者一人ではなく、各工程の人を集めて30分ずつ聞き取ります
  • 「二度打ち」「探す」「聞きに行く」「待つ」が出てくる箇所に印を付けます

印が付いた箇所が、DXで直す候補です。ここまでで、担当者は「ツールの人」から「業務を分かっている人」に変わります。現場からの見え方も変わります。

今あるシステムで直せることを先に

印を付けた箇所のうち、新しい道具を入れずに直せるものから手を付けます。

よくある症状 道具を足さずに直す例
同じ情報をExcelと基幹システムに二度打ちしている 入力の起点を一つに決め、片方は出力だけにする
図面や仕様書を探すのに時間がかかる 置き場所と命名のルールを決め、手順書に書く
進捗を聞きに行かないと分からない 一枚のボードに工程ごとの状態を書き、朝礼で見る

小さくても「困りごとが減った」という実感が現場に生まれると、次の改善に協力してもらえます。最初の成功は、小さくて、早くて、現場に見えるものにします。

一人の担当を「推進者」に変える、経営者の3つの決めごと

担当者が育つかどうかは、本人の能力より、経営者が次の3つを決めているかで決まります。

1. 時間を確保する

日常業務の合間に「余った時間で」進めるDXは進みません。週に決まった時間をDXに充てると決め、その時間は他の仕事を頼まない。これだけで進み方が変わります。

2. 小さく成功させる場を用意する

最初から全社ではなく、一つの工程・一つの困りごとに絞ります。そこで成果が出たら、担当者に社内で発表してもらう。成功体験と、社内での信用が同時に生まれます。

3. 判断を任せる範囲を決める

「ここまでは自分で決めてよい」という範囲を、金額と業務の範囲で明示します。毎回経営者に確認しないと動けない担当者は、推進者にはなれません。

この3つが揃った担当者は、経営者の考えを理解して現場を任せられる、いわゆる「右腕」に育っていきます。人材の確保が難しい時代に、社内で中核人材を育てる仕組みは、DXそのものより大きな資産になります。

半年後の姿を先に決める

DXに「完成」はありません。だから、半年後にどうなっていたいかを先に言葉にします。

  • 進捗を聞きに行く時間がゼロになっている
  • 図面を探す時間が半分になっている
  • 担当者が次のテーマを自分で選んでいる

最後の項目が一番大事です。担当者が自分で次を選べる状態になっていれば、外部の支援が終わっても止まりません。当社が支援するときも、作業を代行するのではなく、この状態をつくることを目標にしています。

費用を抑える方法

DX人材の育成には、国の人材育成事業や補助金を使える場合があります。制度は「設備」「ITツール」「人材育成」「専門家の活用」で分かれ、多くで賃上げの計画が要件になっています。交付決定の前に契約・発注した費用は対象外になるのが一般的なので、検討の早い段階で確認してください(公的支援の活用)。

よくある質問

担当者にITの知識がなくても大丈夫ですか。 大丈夫です。最初の1か月にやるのは業務の聞き取りと図に描くことで、ITの知識は要りません。現場の業務が分かっている人のほうが向いています。

経営者自身がDX担当を兼ねている場合は。 まず「業務の流れを一枚に描く」を経営者自身がやり、その過程で一番よく話を聞いてくれた人を担当者に指名する、という順番をお勧めします。描く作業そのものが、人選の材料になります。

外部の支援は何をしてくれますか。 当社の場合は、業務フローの見える化と課題の整理、今あるシステムを活かした改善の設計とレビュー、標準作業・手順書の整備、社内推進者(右腕)の育成、国の人材育成事業・補助金の活用検討を、現場に入って一緒に進めます。


「右腕」となる中核人材をどう育てるかは、無料資料トヨタ式「右腕」育成術にまとめています。あわせてご覧ください。

この記事の内容を、自社の現場に当てはめて相談する(30分無料)