顧客監査が半年後。最初の1か月で何をするか
監査の通知が来てから書類づくりを始める会社は、半年あっても間に合いません。最初の1か月で「不具合の優先順位」「異常のルール」「書類と現場の差分」の3つを押さえれば、残りの5か月で仕組みは回り始めます。
顧客監査や新規仕入先審査の通知は、たいてい半年前後に届きます。「まだ時間がある」と受け取る会社と、「もう半年しかない」と受け取る会社があり、結果を分けるのは危機感ではなく着手する順番です。
半年あれば十分に間に合います。ただし、書類づくりから始めると間に合いません。この記事では、最初の1か月にやるべき3つのことと、その後の進め方を書きます。
審査で見られるのは「書類」ではなく「整合」
監査員が確かめたいのは、立派なQC工程表があるかどうかではありません。QC工程表と作業手順書と、目の前の現場が一致しているかです。
書類が整っていても、現場の作業者に「この工程で異常が出たらどうしますか」と聞いて答えが人によって違えば、その場で指摘になります。逆に、書類が多少粗くても、現場が同じ答えを返せば評価は安定します。
だから最初にやるのは書類の作り直しではなく、いまの現場を見ることです。
最初の1か月でやる3つのこと
1. 不具合データを並べて、優先順位を付ける
過去1年の不具合を、工程別・現象別に並べます。件数と損失金額の両方で見ると、上位2〜3項目で全体の大半を占めているのが普通です(パレート分析)。
監査対応は範囲を絞らないと息切れします。上位の不具合に絞って再発防止の仕組みをつくるほうが、全工程を薄くなぞるより、監査でも実務でも強い状態になります。
2. 異常が起きたときのルールを決める
「止めるか、流すか」が人によって違う状態が、監査で最も指摘されやすい点です。
決めることは3つだけです。
| 決めること | 例 |
|---|---|
| 何を異常とするか | 寸法が管理限界を外れた、材料ロットが変わった、設備の音が違う |
| 誰を呼ぶか | 班長 → 品質担当 → 工場長の順で、判断できる人が来るまで待つ |
| 待つあいだ何をするか | 該当品を隔離し、タグを付け、記録を残す |
これを「止める・呼ぶ・待つ」の型で決め、現場に貼り、朝礼で確認します。人・設備・材料・方法が変わった瞬間(変化点)に不具合が起きやすいので、変化点を事前に把握する仕組みと一緒に運用します。
3. 書類と現場の差分を洗い出す
QC工程表・作業手順書・実際の作業を並べて、ずれているところに印を付けるだけの作業です。直すのは次の段階で構いません。
ここで分かった差分が、そのまま残り5か月の作業リストになります。差分が見えないまま書類を作り直すと、監査の直前にもう一度ずれが見つかります。
2〜4か月目:仕組みを回す
1か月目で決めた優先順位と差分に沿って、手を動かす期間です。
- 検査手順の見直しと手順書の整備 — 効き目の大きい検査から。写真付きで、作業者が見て分かる形にする
- FMEAの整備 — 上位の不具合について、どの工程で何が起こりうるかを、影響・頻度・検出のしやすさで並べる。自動車業界の審査では整備を求められることが多い
- KPIを2種類置く — 結果KPI(不良率)だけでなく、プロセスKPI(変化点の記録率、異常報告の件数)を置く。プロセスKPIが動き始めると、結果は後から付いてくる
この期間で大事なのは、品質保証部だけの活動にしないことです。製造の班長が手順書を直し、購買が材料ロットの変化点を知らせる。部門をまたいで回り始めて、初めて「仕組み」と呼べます。
5〜6か月目:模擬審査で「答えられるか」を確かめる
仕上げは模擬審査です。書類をチェックするのではなく、監査員の立場で現場に質問する時間です。
- この工程で異常が出たら、どうしますか
- この材料のロットが変わったことは、誰がどう知りますか
- 先月の不具合は、なぜ起きて、何を変えましたか
作業者が自分の言葉で答えられれば、本番でも答えられます。答えに詰まった箇所が、最後の1か月で直すところです。
間に合わない会社に共通すること
- 書類づくりから始める — 現場との差分が最後に見つかる
- 品質保証部だけがやる — 現場が「自分たちの話」だと思っていない
- 監査が終わると元に戻る — 監査のためだけの仕組みは、監査と一緒に消える
3つ目が一番もったいない点です。監査対応で決めた異常処置のルールや変化点管理は、本来、日々の不具合流出を止めるためのものです。監査を「仕組みをつくる締切」として使うと、監査が終わったあとも会社に残ります。
よくある質問
半年より短い場合はどうすればいいですか。 順番は同じです。1か月目の3つを2週間に圧縮し、対象の工程を上位の不具合に絞ります。全部をやろうとしないことが、短期間ではいちばん効きます。
書類は英語や中国語で用意する必要がありますか。 審査元の要求によります。要求がある場合も、まず日本語で現場と一致した書類をつくり、それを翻訳する順番のほうが、ずれが起きません。
外部の支援は何をしてくれますか。 当社の場合は、不具合データの見える化と優先順位付け、変化点管理と異常処置のルールづくり、QC工程表・手順書の見直し、FMEAの整備、模擬審査を、現場に入って一緒に進めます。作業を代行するのではなく、社内で回る状態をつくることを目標にします。
監査の通知が来たら、書類を開く前に現場を歩いてください。そこで見えた差分が、残りの半年の地図になります。